知的障害者施設における今日的課題
―人権侵害をなくす為にはどうしたらよいか―
中 村 剛 (立正大学大学院生)
キーワード:人権侵害・倫理綱領・実習生のチェック
T 問題の所在
現在、知的障書者施設で暮らしている人の中には、施設に入居する前、次のような経験をした人がいる.
- Aケース
- 家族が全般的に知能が低かったことから、周囲よりぱかにされ、本人が16〜17歳の頃農作業中に近所の者から頭部を強く打たれ、それ以来、行動がおかしくなった。(福祉事務所から送られてきた調書より)
- Bケース
- 弟は知的な遅れがあったので、周りからぱかにされてきたが、今、施設に入っているので安心している。(入居者の兄の話)
ところが、施設に入っても、職員による体罰・虐待などの人権侵害を受ける場合がある。しかも、それが限られたごく一部の施設だけとは言えない。
『施設利用者の処遇に関する実態調査』を実施した日本知的障害者愛護協会・倫理委員会は、『知的障害施設職員行動規範−1999年版−』を発行するに当たり次のように記している。
「…実態調査結果から垣間見えたものは、…日々迷いながらも懸命に取り組む職員と、一方では、問題視すぺき行動をとる職員のすがたである」( は筆者)
U 目的
体罰や虐待などの入権侵害をなくすための方法(解決策)が、関連雑誌や文献において示されている。それらの方法の中で、実際にはどの方法がどのように有効なのか、知的障害者(入所)施設における実践を通し推測する。
V対象となる行為と対象施設
1.対象となる行為
体罰・虐待などの人権侵害とされる行為とは、具体的には以下のような行為である。
- Aクループ
- 叩く、けるなどの身体的な曇力。
- Bグループ
- 高圧的態度、からかい、見下した物の言い方など心理的暴力。人の尊厳を踏みにじるような発言・態度。
- Cグループ
- 過剰な指導・しつけ。
2.対象とした施設概略 ※2000.4.1現在の状況。
- 種別〜知的障害者(入所)更生施設、A施設
- 人数〜32名
- 職員〜施設長1、副施設長1、指導貝10名
- 入居者の平均年齢〜55歳
- 障害の程度〜知的には、ほとんどの人が重度の判定だが、強度の行動障害を示す人は少ない。
W 体罰・虐待などの人権侵害をなくすのに必要とされる主な方法
- どのような行為が体罰・虐待などの人権侵害となるのか整理し、自覚する。
- 職員研修
- OFF-JT
- 0JT
- 実際に援助する中で、不適切な発言、態度、行為を注意/助言する。
- 施設として倫理綱領・行動規範をもち、職員に徹底する。
- オンプズマン・実習生などの第三者の視点を導入し、チェックしてもらう。
- 内部告発(通告)
V 方法と結果
1.1998年4月以前の状況。
- 入居者に対する呼び方
- ほとんどの職員が年上の入居者に対し「〜ちゃん」と呼んでいる。
- 入居者に対する高圧的・権威的な言動、ぱかにしたような発言・態度。
- 当時の実習生の日誌には、「問題行動への対応。実際にはやり過ぎでは?本気で叱っているの?楽しんででない?という様にも見えそうな対応を見た気がする。」とある。
- 入居者に対する体罰、それに準じた行為。
- 当時の実習生のアンケートには「寮生を本気で平手打ちしていた。意味もなく叩く。」とあった。また別の実習生の日誌には「職員が寮生を怒鳴ったり、叩いたりしている姿を見て、はじめはかわいそう等、職員に対し、どうしてこんな事をするのだろうという毎日であった。」とある
これらの事に対し、施設長から幾度となく注意されているが改善されず、この状況を体験した案習生は、実習日誌.に次のように書いている。「たぶん私は施設実習を体験するまで心に描いていたものと、実際のギャップを感じ、そしてこれが実際なのだと分からされた様に思う。」別の実習生は「私は明日実習に出たくないと思う時がありました。それは職員の寮生に対する行動が、私には疑問に感じ…」と書いている。
―以上・1998年4月のU員会讐で提出したレポート「人権侵書防止の為に」より抜粋―
2.1998年 4月〜1999年 2月
- <方法>
- この期問は、人権侵害とされる行為をなくす為、繰り返し研修が行われた。研修で提出されたレポート・タイトルと主な内容は以下の通り。
- 1998年4月23日「人権侵害防止の為に」
施設の現状を再磧認し、人権侵音防止の為の方法を提示。
- 1998年5月26目「人権と人間観について」
人はなぜ人権をもつのか.それは人間に尊厳があるからである、といった人間観を幾分、哲学的視点から報告。
- 1998年6月25目「利用者主体のサービスについて」
久田則夫「社会福祉における権利擁護の視点に立つ新たな援助諭」他を引用し、これからの利用者観/援助観について報告。
- 1998年7月23目「これからの施設の在り方」
これからの施設の在り方として、オンブズマンのような第三者の視点を導入することが必要であることを報告。
- <結果>
- 「…平成10年に入り、人権についての研修(レポート)を4回行ったにもかかわらず、まだちゃん付けが日常的に見られ、人権侵害とされる行為(押入れに閉じ込める、昼食を抜く)も行われてしまった。」
―対象施設の倫理旧領より引用―
3.1999年3月〜2000年10月現在
- <方法>
- この期問は、人権侵害とされる行為をなくす為に、倫理綱領を定めた。また、実習のオリエンテーション時、倫理綱領について説明し、実習終了時に、職員がこの倫理綱領を守っていたかチェックする体制を導入した。そして、不適切な発言・対応をした職員に対し、注意・助言をした。
- <結果>
- 1999年に1回、職員が入居者の頭をスリッパで叩く、といったことがあった。また、時折、ちゃん付けで呼ぷ職員もいる。しかし、実習生のアンケート結果を見ると、接し方は適切である、に○がついているものが多く、最近では、人権侵害とされる行為はなくなった。
Y 考察
職員研修だけでは、体罰や虐待などの人権侵害とされる行為はなくならなかった。しかし、倫理綱領を定め、実習生のチェックを導入することで、人権侵害とされる行為はなくなった。この結果は、倫理綱領を定め、この間題を施設(組織)としてなくすように努めることの重要性を示すが、この他、次の点が有効に作用したと考える。
人権侵害がなくならない原因の一つとして、
- 人権侵害とされる行為をする職員も、保護者や管理職の前では、その行為をしない。
- 入居者の中には、人権侵害とされる行為をされても、訴えることができない人もいる。
- 職員が人権侵害とされる行為をしていても、同僚は人間関係を気にかけて、そのことを管理職に伝えない。
といった理由から、これらの行為を事実として確認しにくい、といったことがある.この点に対し、
- 実習生は、職員の人間関係に縛られない存在である。
- 実習生は、入れ替わり施設に来る為、職員に外部の人間という意識が低くなり、職員は、実習生の前では地の姿を見せやすい。
これらの理由から、実習生の日誌、アンケート、話から、人権侵害とされる行為がされていたか確認でき、そしてそのことに対処でさる。
以上のことから、実習生によるチェックという方法は、人権侵害をなくす為に有効な方法の一つであると考える。
参考文献
- 日本知的障害者愛護協会(1998):『AIGO』(第45巻第2号)特集・今、人権を考えるT
- 市州和彦(2000):『施設内膚待』,誠信書房